生活保護は最後の砦なのでは? 生活・通信困窮を乗り越え、つながる社会にするには【コラム】

株式会社アーラリンク代表取締役社長の高橋翼です。
私は2013年にアーラリンクを創業し、「通信困窮」というまだあまり世間に知られていない社会課題に取り組んできました。日本には生活保護という制度があり、「健康で文化的な最低限度の生活」が法律で保障されています。しかし、実際にはその支援が行き渡らず、貧困や孤立に苦しむ方が多い現状を憂慮しています。

特に、自治体による“水際作戦”が問題視されていることは看過できません。先日報じられた桐生市のケースでは、暴力団対応経験のある元刑事の方が生活保護窓口に配属され、不正受給防止を徹底しているそうです。それ自体は公費を守る観点で一定の意義を持ち得ますが、その結果として困窮者が申請をためらい、孤立を深めてしまう懸念があります。実際、桐生市ではこの10年間で生活保護受給世帯数が約半減し、その中でも母子世帯の減少が特に著しいというデータがあります。不正受給の撲滅とはいえ、統計的にここまで顕著に数が減るのは不自然であり、申請抑制が疑われても仕方ないのではないでしょうか。

私自身、2011年に早稲田大学社会科学部を卒業し、在学中は大手通信会社の商材を扱う代理店で営業を経験しました。そのとき、通信手段を持たない方々が社会的に孤立しやすく、必要な情報や支援につながれない実態を目の当たりにしました。携帯電話の契約をする経済的余力がない、あるいは審査が通らないなど、通信が確保できないだけで行政やNPOのサポートを利用しづらくなる構造を変えたいと思い、アーラリンクを立ち上げたのです。

弊社の「誰でもスマホ」は、一般的な携帯電話契約を結べない方向けに、端末と回線を低コストで提供するサービスです。これにより、“通信困窮者”と呼ばれる方々が社会との接点を持ちやすくなります。たとえば、生活保護の申請に関する情報をインターネットで調べたり、周囲の支援者と連絡を取り合ったりできるようになるだけでも、大きく状況は変わるのです。通信がない状態では、そもそも何をどうすればいいか分からず、孤立がさらに深刻化してしまいます。

生活保護は最後のセーフティネットですが、先進国であるがゆえに貧困が見えにくく、支援の手が届きづらいという問題があります。そこに“水際作戦”が加われば、本当に困っている方が窓口にすら行けなくなる可能性があるでしょう。自治体としては不正受給を防ぎたい気持ちも理解できますが、それで真に支援を必要とする方を排除していては、本末転倒です。桐生市のデータが示唆するように、母子世帯など特に弱い立場にある方々が制度から締め出されている疑いがある場合、早急な見直しが求められます。

私たちはソーシャルベンチャーとして、利益と社会貢献の両立を目指しながら自立支援に取り組んでいます。従業員の給与水準を業界平均以上にするなど、継続的に事業を成長させることで、貧困解消への道を切り拓きたいと考えています。NPOのように寄付やボランティアに依存するのではなく、ビジネスとして収益を上げつつ課題解決を図ることで、より多くの困窮者に手を差し伸べられる可能性が広がるからです。その根底にあるのは、助け合いだけでなく、お互いの尊厳を認め合う「共に生きる」姿勢でもあります。

お客様対応の現場では、感謝の言葉より厳しい言葉を先に浴びせられることも多々あります。それでも“太陽のような人”として明るく接し続けられる人材こそが、困っている方を救う大きな原動力になると私は考えています。貧困に苦しむ方の中には、自分が助けを求めることを恥じたり、周囲の目を過度に気にしたりする方も少なくありません。だからこそ、安心して頼れる環境づくりが何より大切です。通信の力で孤立を防ぎながら、相談を促し、必要な支援につなげることが私たちの役割だと感じています。

今回の桐生市の例に限らず、全国各地で生活保護の運用は異なります。そこで弊社が運営する「誰でもスマホ リサーチセンター」では、通信困窮者の声を拾い上げ、社会に伝える活動を続けています。水際作戦の影響で本来の制度が機能していないのか、不正受給を防ぐ正当な方法なのかを見極めるには、統計だけでなく当事者の実情を知ることが欠かせません。また、通信環境があることで自治体の外部にも相談しやすくなり、問題を多角的に検証する動きが広がると期待しています。

私は「日本を強くする」というパーパスを掲げていますが、その“強さ”は単に経済や軍事力を指すのではありません。誰もが困ったときに手を差し伸べられ、一度つまずいてもやり直せる社会こそが、真に強い国だと考えています。物価高やコロナ禍の影響で貧困問題が深刻化する中、通信と情報共有によって困窮状態を可視化し、さまざまな機関が連携することで、解決策を見出せる可能性は大いに高まるでしょう。

今後も日本社会における通信格差と貧困の連鎖を変えていきたいと願っています。ときには行政の姿勢を批判することもあるかもしれませんが、それはより良い社会を実現するために欠かせない議論だと捉えています。通信困窮を解消し、生活保護やその他の支援制度が真に必要な人へ届くようになれば、人々は自分の可能性を見失わずに歩むことができるはずです。そうしてこそ、私は「日本を強くする」という目標に近づけると信じています。これからもソーシャルベンチャーとしての覚悟を持ち続け、貧困解消と社会の底力を引き出す活動に邁進してまいります。

最後になりますが、このような社会課題を解決するには、一人ひとりの気づきと行動が不可欠だと痛感しています。私たちが提供するのはあくまで“通信”というツールですが、それを使って支援の輪を広げるのは人の力です。皆様にはぜひ、身近な方の困りごとに耳を傾けていただき、必要な情報や相談先へつなぐ“太陽のような存在”になっていただければと願っています。その積み重ねが、やがては日本全体の底力となり、誰もが安心して暮らせる社会を築く原動力になると確信しています。

執筆 高橋 翼
株式会社アーラリンク代表取締役/一般社団法人リスタート代表理事

1985年埼玉県生まれ。通信事業の将来性と貧困救済の必要性を感じ2013年アーラリンク創業。2019年に社会的困窮者を対象とし個々の社会復帰と自立を目指した支援を行う一般社団法人リスタートを設立。地方自治体や支援団体と連携し、携帯電話を持てず社会に参加できない「通信困窮者」支援に取り組む。

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