「40.8%」。これは2025年時点における生成AIインフルエンサー市場の年間平均成長率だ。

すでにインフルエンサーマーケティング市場全体の約30%を、物理的肉体を持たない「仮想的人格」が占め始めている 。 SNSのタイムラインで我々が羨望の眼差しを向けている相手は、もはや人間ではないかもしれない。
かつてインフルエンサーといえば、私生活を切り売りし、共感を集める実在の個人を指した。 しかし今、その勢力図は激変している。 スペインのAIモデル、アイタナ・ロペス(Aitana Lopez)を例に挙げよう。
彼女のInstagram投稿1件が生み出すメディア価値(EMV)は、約8000ユーロ、日本円にして約130万円に達すると推計されている 。 年間の獲得価値で考えれば、トップクラスのビジネスパーソンの年収を軽々と凌駕する計算だ。 日本でも、ピンクのボブヘアが象徴的な「imma」が2025年大阪・関西万博のスペシャルサポーターに就任するなど、その影響力は公的な場にまで浸透している。
なぜ、我々は実在しない「記号」にこれほどまで惹きつけられるのか。 スマホの画面越しに見る彼女たちは、もはや「不気味の谷」を完全に超えた。 LoRAやControlNetといった最新技術により、手の形状やポーズ、背景の一貫性は完璧に制御されている 。 24時間365日、スキャンダルに怯えることもなく、老いることもない。 企業にとって、これほど「使い勝手の良い」マーケティング資産は他にないのだ。
人間は「完璧なAI」に駆逐されるのか
企業が人間に見切りをつけ、AIへと舵を切る理由は冷徹なまでに合理的だ。 第一に、リスク管理の徹底である。不倫や差別発言といった「人間由来のスキャンダル」によるブランド毀損リスクが皆無だ 。 第二に、圧倒的なコストパフォーマンスである。 一度キャラクターを構築すれば、渡航費も宿泊費も不要。世界中のフォロワーに対し、現地の言語で完璧なコミュニケーションを同時に展開できる 。
日本の文化庁も、この潮流を注視している。 原則として、AI生成物が著作物として認められるには、人間による「創作的寄与」が必要だ 。 プロンプトの試行錯誤や、生成後の大幅な加筆・修正があって初めて、その表現は法的に保護される 。 つまり、現在のAIインフルエンサーの背後には、最新技術を「筆」として使いこなす高度な人間のクリエイティビティが存在している。
「透明性」が問われるデジタル経済の出口
しかし、この「完璧な虚像」の台頭には影もつきまとう。 AIによる不自然なまでに完璧な造形が、若年層に不可能な美の基準を押し付け、心理的な悪影響を及ぼすリスクが指摘されている 。 これに対し、一部のAIインフルエンサーはあえて「ロボットであること」をラベル付けし、透明性を確保する動きを見せ始めている 。
今、我々に求められているのは、目の前のコンテンツが「人間かAIか」を峻別することではない。
それが「誰の、どのような意図で作られたものか」を見極めるリテラシーだ。 2025年以降、インフルエンサーマーケティングは人間とAIが共生する「ハイブリッド型」へと移行していくだろう 。
「note」などのプラットフォームでも、AIを駆使して収益化を狙うクリエイターが急増している 。 だが、最後に生き残るのは「稼げる仕組み」に乗っただけの二次情報ではない。 AIという知性の拡張を手に入れ、そこに「誠実さ」と「独自の視点」を組み込める者だけが、真の信頼を勝ち取ることができるのだ。
文・新藤実

