連日、ニュースでも取り上げられている医師不足問題。地域医療が崩壊しつつある一方で、美容医療クリニックが都市部で急増している現状も注目を集めている。過酷な勤務環境に耐えかねて外科医などの勤務医を辞め、美容医療へ転向する若手医師が増加しているという。こうした流れは「直美(ちょくび)」という新語で表されているが、厚生労働省はこの現象を直接規制する方針ではなく、医療全体の偏在を是正するための広範な対策を検討しているようだが本腰とはいえないようだ。医師偏在という問題の本質に迫るには、さらなる検討が必要ではないだろうか。
SNS上では、「命を救う医師が過酷な労働環境で苦しみ、一方で美容医療に流れる現状に胸が痛む」という声が見られる。また、「美容医療も患者にとって重要な分野だ」という意見もあり、医師がどの分野を選ぶかは自由であるべきだという見解も根強い。このように、賛否の分かれる問題である。
医療従事者労働組合の調査結果からも分かるように、看護職員や医師の労働環境は依然として厳しい。特に夜勤を含む長時間労働の実態は、医療崩壊のリスクを増大させている。一方、美容医療が急増する背景には、患者側のニーズが存在していることも見逃せない。外科医として過酷な労働を経験した若手医師が「プラスを提供する美容医療」に魅力を感じるのも理解できる。しかし、命に直接関わる医療分野と美容医療が同じ基準で評価されてよいのか、議論の余地があるだろう。
厚労省が検討しているのは、都心に開業するクリニックが多い現状を踏まえ、新規医療機関の開業に一定の条件を求める要件だ。この規制が実際に医師偏在を解消するかは未知数であるが、地域医療を守るには、単なる規制強化だけではなく、待遇改善や働き方改革、地方医療への支援拡大も必要だ。
医師偏在や過酷な勤務環境は、医療崩壊を防ぐために早急な対応が必要な問題だ。美容医療に流れる医師を抑制するだけでは解決にはならず、医療現場全体の改革が求められる。政府には、医師が本来の使命を全うできる環境を整えるとともに、美容医療を含めた多様な医療ニーズに対応する政策を推進してほしい。この問題を放置すれば、医療現場の崩壊はさらに進行する危険性があるため、全体を俯瞰した上で、実効性のある対策を講じる必要があるのではないだろうか。
文・野島カズヒコ