子連れでの外食は、親にとってしばしば大きなハードルとなる。とくに小さな子どもがいる家庭では、「周囲に迷惑をかけないか」「ゆっくり食事できるのか」といった不安から、外食自体を諦めてしまうケースも多いのではないだろうか。そんな中、ラーメン専門店「一風堂」での“神対応”がSNSで大きな話題となった。「パパとママ、交替でラーメン食べますか?」というさりげない一言に、多くの親子連れが救われたというエピソードは、約7万件の「いいね」がつくほどの反響を呼び、外食産業におけるサービスの在り方を考えさせる出来事となった。

この話題の中心となった「抱っこチェンジ」は、子連れ客が交代で子どもを抱っこしながら順番にラーメンを食べられるよう、提供タイミングを調整する一風堂独自のサービスである。SNSでは「スタッフ間で“抱っこチェンジ”と呼ぶなんて、会社全体に優しい空気が流れている証拠」「ベビーカーの預かりや子供用食器の心遣いにも感動」といった称賛が多く集まった。中には、「産後初めて夫婦で熱々のラーメンを食べられた」「不安な気持ちがやわらいだ」と、実際に一風堂を利用した子連れ客の体験談も寄せられている。
一風堂側は、元々20年以上前から現場スタッフの自発的な気配りとして「抱っこチェンジ」が存在していたが、2022年に他店の子連れ対応がSNSで注目を集めたことで、「うちも積極的に発信していく必要がある」と考えるようになったそうだ。実際、子連れでの外食には未だに「肩身が狭い」と感じる人も少なくないという現実がある。そうした状況を変えたいという思いが、一風堂のサービスを発展させたのだろう。
また、「抱っこチェンジ」だけでなく、飲み会などで「締めのラーメンを後から出してほしい」といったニーズにも応える「アトラー」サービスを導入するなど、子連れ以外の客にも配慮した柔軟な対応が行われている。さらには「カルガモプロジェクト」として、子育て世帯だけでなく、その価値観に賛同するすべての客に替玉や卵を無料サービスするなど、社会全体で支え合う雰囲気を広げる活動にも取り組んでいる。
こうした取り組みには、「子連れ客だけが得をするのでは?」という意見も時折見られるが、一風堂の担当者は「社会全体で子育てを応援する文化を作りたい」と話している。実際、SNS上でも「こういうサービスが当たり前になれば、みんなが気持ちよく外食できる」「一風堂の姿勢に共感したので自分も応援したい」といった声が目立つ。社会全体が寛容になれば、子育て世帯に限らず、多くの人がより快適に暮らせるのではないかと考えられる。
一風堂の「抱っこチェンジ」や「アトラー」などのサービスは、単なる店舗の売り文句ではなく、現代社会における外食のあり方や、多様なライフスタイルを尊重する姿勢が表れているように思われる。今後、こうした思いやりのある対応が、飲食業界全体にさらに広がれば、子育て世帯だけでなく、誰もが安心して食事を楽しめる社会に近づくのではないだろうか。小さな配慮の積み重ねが、大きな安心や温かさを生み出すということを、このエピソードは私たちに示しているのだと感じる。今後も、こうした優しさの輪がより広がっていくことを期待したい。
ライター / 葛野木