Earth hacks株式会社が主催する「デカボサミット 2025」が開催された。本サミットでは、大手企業や自治体とともに、「成果が見える脱炭素」についての最新のケーススタディが共有され、講演やパネルディスカッションを通じて、脱炭素がビジネスとして成立する条件や、生活者を巻き込むための実践的なヒントが検証された。

Earth hacks株式会社は、生活者一人ひとりの行動を起点に、脱炭素社会の実現を目指す共創型プラットフォームを展開する企業。
環境価値を割引率のように可視化する「デカボスコア」など、環境配慮を「我慢」や「義務」として押し付けるのではなく、日常の消費や選択の中にある価値をつなげることで、脱炭素をビジネスと生活の両立するものとして社会に実装することを目的として掲げている。
イベントに登壇した経済学者の成田悠輔氏は、脱炭素をめぐる議論そのものが危機に直面している現状を、2つの時間軸から読み解いた。

成田氏はまず、地球の歴史という超長期の視点に立つと、人類の存在や温暖化、脱炭素といった問題は「誤差のようにも見える」と指摘する。地球は過去に全球凍結すら経験しており、それに比べれば現在の温暖化も相対化されて見えるという。
一方で、短期的にも脱炭素が厳しい状況に置かれているとのこと。米国をはじめ、脱炭素政策からの撤退や否定的な動きが広がり、欧州でも「脱炭素は庶民を苦しめるエリートの綺麗事だ」とする言説が支持を集めた。感染症、戦争、インフレといった差し迫った危機の中で、人々は数十年先の地球規模の未来を考える余裕を失いつつある。
成田氏は短期や超長期ではなく、中期的な時間軸で脱炭素を再構築する必要性を示した。その際に問われるのは、どのような価値観や成果指標、物語で脱炭素を語り直すのかという点だ。
日本という国は政治的・社会的に比較的安定し、横ばいを続けてきたからこそ語れるものがあるという。成田氏は「日本発の新しい脱炭素の考え方、価値観が生まれるのではないか」と述べた。
続く講演でEarth hacks代表取締役社長CEOの関根澄人氏は「脱炭素を前進させる鍵は生活者の行動変化にある」と強調した。
CO2排出量は企業が多いと思われがちだが、実際は家庭内消費が大半。カーボンニュートラルの実現には、生活者の参加が不可欠だという。

日本では脱炭素やカーボンニュートラルの認知度は9割を超え、生活者自身も「取り組むべきだ」と考えている人は多い。しかし、実際に積極的に行動している人はわずか3〜4%にとどまる。その最大の理由は「何をすればいいのかわからない」ことだ。
関根氏は、このギャップを埋めるための鍵として2つの要素を挙げる。
1つは「欲望×ストーリー」。環境のためだけでは人は動かず「おいしい」「楽しい」「かわいい」「応援したい」といった感情に訴えるストーリーが必要だ。もう1つは「貢献実感」で、自分の行動がどれだけ環境に貢献しているのかが見えることが、継続的な行動につながる。
さらに関根氏は、日本らしい脱炭素の可能性にも言及した。和食文化や四季に根ざした食生活、長く使うことを前提に作られた伝統工芸品は、もともとCO2排出量が少なく、脱炭素との相性が良い。海外のトレンドを追うのではなく、日本人らしい暮らしそのものが環境に優しいのだと伝えることが重要だ。
関根氏は「脱炭素のために我慢するのではなく、素敵な暮らしの結果として脱炭素につながっている状態をつくりたい」と締めくくった。


