近年、AI技術の進歩は目覚ましく、さまざまな分野で活用されるようになっている。その中でも特に注目を集めているのが「創作」分野でのAIの活用だ。OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、文芸創作を得意とする新しいAIモデルを開発し、それによって生成された短編小説に「初めて衝撃を受けた」と発表した。
また、日本では生成AIを活用したアニメ制作の試みが進められ、2025年には「ツインズひなひま」という作品が地上波で放送される予定だ。この動きに対し、「新しい可能性が開かれた」と歓迎する声がある一方、「倫理面や権利面での問題があるのではないか」と懸念する声も少なくない。
AIが創作活動をどこまで支援できるのか、そしてその影響はどのようなものになるのか。これらの試みが持つ意義と課題について考えてみたい。
AI創作への期待と疑問 AIが生み出す「創造性」は何なのか?
Altman氏が投稿した小説についての内容は、悲しみをテーマにしたメタフィクションであり、AI自身が語り手として登場するというものだった。SNSでは「美しい」「AIが感情を理解し、表現している」と感動する声があった一方、「本当に創造的なのか?」と疑問を投げかける意見も見られた。
実際、AIが生成する文章やアート作品は、過去のデータを学習し、組み合わせることで作られる。アナリストからは「AIは情報を再構築しているだけで、真の意味で創造的とは言えない」と指摘している。つまり、AIが独自の視点や感情を持っているわけではなく、あくまで既存のデータの中から「それらしく」作り出しているに過ぎないという見方だ。
しかし、これまで人間だけが持つとされていた「創作の力」をAIがある程度再現できるようになってきたことは、間違いなく大きな進歩だろう。AIが生成する文章が「感動を与える」のであれば、それは創作として成立していると言えるのではないだろうか。
生成AIアニメの可能性と課題
一方、アニメ業界では「ツインズひなひま」のようにAIを活用した作品制作が進んでいる。制作側は「AIはあくまで補助ツールであり、最終的な品質は人間が保証する」と説明しているが、この試みには賛否が分かれている。
肯定的な意見としては、アニメ業界の長年の問題である「労働環境の過酷さ」を改善できる可能性があるという点が挙げられる。特に若手クリエイターからは「作業負担が軽減されるなら歓迎したい」という声が上がっている。アニメ制作の現場は長時間労働が常態化しており、待遇の改善が求められてきた。AIが単純作業を担うことで、人間のクリエイターがより創造的な作業に集中できるなら、それは大きな利点だろう。
しかし、否定的な意見も根強い。特に「AIの活用が本当に制作環境の改善につながるのか?」という疑問がある。AIを導入することでコスト削減が進み、逆に人間のクリエイターの仕事が減るのではないかという懸念もある。また、AIが作る映像のクオリティに対する不安もあり、「技術的にはまだ未成熟なのではないか」と指摘する声も見られる。
さらに、AIを活用した創作物の著作権の問題も重要だ。AIが生成したコンテンツの著作権が誰に帰属するのかは、まだ明確なルールが定まっていない。特に、学習データとして既存のアートや文章が使用される場合、その元の著作物との関係性をどう扱うかは今後の大きな課題となるだろう。
AIと人間の共存の形を模索する
AIが創作の分野に進出することは、避けられない流れだろう。文芸創作でもアニメ制作でも、AIの技術はすでに一定のレベルに達しており、今後さらに進化していくと考えられる。
ただし、AIが「創造する」とはどういうことなのか、そして人間のクリエイターとどのように共存していくのかについては、慎重に考える必要がある。単に作業の効率化やコスト削減のためにAIを導入するのではなく、人間のクリエイティブな能力をより発揮できる形で活用することが重要なのではないか。「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIと協力してより良い作品を生み出す」未来を作れるかどうか。それを決めるのは、技術そのものではなく、それをどう使うかを考える私たち人間なのではないだろうか。
執筆 / 菅原後周