ママから届ける「抗体のプレゼント」──RSウイルス「母子免疫ワクチン」、4月から定期接種へ

2026年4月から、RSウイルスに対する妊婦向けワクチン「アブリスボ 筋注用」が定期接種となる。妊婦が定期接種の対象になるのは国内初。妊娠中にワクチンを接種することで、生まれてくる赤ちゃんをRSウイルスの重症化から守る「母子免疫ワクチン」という新しいアプローチが、いよいよ公費で受けられるようになる。

2歳までにほぼ全員が感染するウイルス

 RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、咳やくしゃみによる飛沫感染や、ウイルスが付着した物品を介した接触感染によって広がる呼吸器感染症の原因ウイルス。症状は鼻水や咳、発熱など風邪に似ており、大人は軽症で済むことが多い。しかし、2歳までにほぼ100%の子どもが感染するとされ、特に生後6カ月未満の赤ちゃんが罹患した場合には、細気管支炎や肺炎を引き起こし重症化するリスクが高い。国内では毎年約12万〜14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち約3万人が入院を必要としているとの報告がある。

 さらに厄介なのは、RSウイルスには特効薬が存在しないことである。感染した場合は酸素投与や輸液、呼吸管理といった対症療法が治療の中心となる。また、乳児期にRSウイルスに感染して重症化した子どもは、将来的に気管支喘息を発症するリスクが高まることも指摘されている。世界的に見ても、2010年時点でRSウイルスは1歳未満の急性下気道感染症による死亡の約3分の1を占め、感染症による乳児死亡原因としてはマラリアに次いで2位であった。

「抗体のプレゼント」──母子免疫ワクチンの仕組み

 今回定期接種化される「母子免疫ワクチン」は、接種によって母体内でRSウイルスに対する抗体が産生され、その抗体が胎盤を通じて胎児に移行する。赤ちゃんは出生直後から免疫を持った状態で生まれるため、最も感染リスクの高い生後早期からの重症化を防ぐ効果が期待できる。

 国内外の臨床試験では、生後3カ月以内の重症化予防効果が81.8%、生後6カ月以内でも69.4%と高い有効性が実証されている。米国の大規模な実世界データを用いた研究でも、早産や妊娠高血圧症候群などのリスク増加は認められておらず、厚生労働省も重篤な副反応について重大な懸念はないとしている。副反応としては接種部位の痛みや頭痛、筋肉痛などがみられるが、他のワクチンと同様の範囲にとどまる。

 産婦人科医の宋美玄氏は「お母さんが作った免疫を赤ちゃんにあげる共同作業のようなもの。私たちはこれを『赤ちゃんへの抗体のプレゼント』と呼んでいる」と説明する。母親自身の感染予防にもなるため、まさに一石二鳥である。

定期接種化で何が変わるか

 これまでアブリスボは任意接種として費用が全額自己負担で、3万〜3万8000円程度と高額であった。2026年4月からの定期接種化により原則無料となるため、経済的な理由で接種を諦めていた家庭にとって大きな前進となる。肺炎球菌や水痘など乳幼児へのワクチンと同じA類疾病に位置づけられ、厚生労働省が「対象者全員が受けるべき予防接種」として推奨している。定期接種の対象は28~36週の妊婦で、接種は1回のみ。2人目以降の妊娠で再び接種する場合も対象となる。

 SNS上では「自費でも打つつもりだったけど無償化は助かる」「RSワクチンの定期接種化は本当に素晴らしい。新生児を守りたければ接種一択」といった期待の声が多数寄せられている。一方で、ワクチンに対する不安や誤情報がSNS上に流布されることもある。宋氏は「SNSでは自分と考えの近い情報が表示されやすく、一度不安を感じると否定的な情報ばかりが目に入りやすい。不明な点があれば、ネットの情報だけで判断せず、必ずかかりつけの産婦人科医に相談してほしい」と注意を促す。

 RSウイルスは毎年流行を繰り返し、乳幼児には大きなリスクをもたらす感染症である。特効薬がなく、将来の後遺症として喘息につながる可能性も示唆されている。RSウイルスワクチンの定期接種化は、出生直後の赤ちゃんを守るための有効な手段として、大きな一歩といえるだろう。4月は、接種希望者が殺到する可能性も懸念されているようです。妊娠中の方やこれから妊娠を予定している方は、かかりつけの産婦人科医に相談し、正しい情報をもとに前向きに検討してほしい。

【取材協力】宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。丸の内の森レディースクリニック院長。産婦人科医としての専門知識と二児の母としての経験を活かし、メディアやSNS等で女性の健康や妊娠・出産に関する情報を積極的に発信している。

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